2017年1月22〜23日、フランス・リヨンで行われた洋菓子の国際大会「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー2017」にクラブハリエ代表取締役社長/統括グランシェフの山本隆夫が出場しました。
各国の予選を勝ち抜いたパティシエたちがその腕を競う世界最高峰の場として知られるこの大会。山本は氷彫刻・アントルメグラッセ(アイスケーキ)担当として、シュゼット・ホールディングスの駒居崇宏シェフ、森永商事の植﨑義明シェフとともに、企業の枠を超え、日本代表“チームジャパン”として頂点を目指しました。
今回チームキャプテンとして世界に挑んだ山本。和菓子舗「たねや」の次男に生まれ、現在、たねやグループの洋菓子部門「クラブハリエ」グランシェフとして経営を担っています。これまでには様々な紆余曲折、試練がありました。クラブハリエの歴史、そして山本のストーリーをご紹介します。
Episode.5 / 2016.12.09 UPDATE
2010年、WPTCで優勝を手にした山本。世界一の栄冠は本当に嬉しいものでしたが、その後、後進たちが各分野で次々と世界の舞台で結果を残すなか、山本のなかにある感情が芽生えてきました。
「数あるコンクールで“世界一”となったパティシエは世界中にいて自分はそのなかの一人にすぎない。別の世界大会で、しかも別の部門でも優勝することができたら、“2度の世界一”というおそらく今まで誰も達成したことのない偉業が成し遂げられるかもしれない」。
人と同じことでは満足しない、常に上を目指す山本らしい動機により、クープ・デュ・モンドへの挑戦が始まったのです。
氷彫刻・アントルメグラッセ(アイスケーキ)部門での初挑戦となったクープ・デュ・モンド2015日本予選。山本は2位でフランス本選への切符を逃しました。振り返ると、「一度世界一になったという慢心がどこかにあった」と言います。「このままでは終われない」という思いが山本を突き動かします。
2016年3月23、24日に東京で行われたクープ・デュ・モンド2017の日本予選では、国内トップレベルのパティシエによる厳しい戦いが繰り広げられました。アメ細工・アントルメショコラ(チョコレートケーキ)、チョコレート細工・アシエットデセール(皿盛りのデザート)、氷彫刻・アントルメグラッセ(アイスケーキ)の3つの部門の優勝者3名が日本代表チームとして、フランス・リヨンで行われる本選に出場することができます。
山本は「NATURE(自然界)」をテーマに、限られた時間で氷彫刻とアントルメグラッセを仕上げました。縦100cm、横50cm、厚さ25cmの氷塊にノコギリやノミなどの大小さまざまな刃物を使い分け、作品を削り出します。氷の破片が飛び散るなか、無機質だった氷の塊に“百獣の王ライオン”の命が吹き込まれてゆきました。
氷彫刻は、今まで山本が極めてきた洋菓子のテクニックとは全く別の技術を要するといいます。チョコレート細工が複数のパーツを組み合わせて華やかに作り上げる“足し算”の作業だとすると、氷彫刻は正反対の“引き算”の感覚が必要。直方体の氷から無駄な部分を削っていく作業に、失敗は許されません。
はじめに薄くキズをつけて大まかな下書きを描きますが、それ以降は下絵を見ることなく、すべて頭の中のイメージに沿って作業を進める山本。頭の中にはライオンの骨格から毛並み、表情に至るまで360度の姿が把握されています。この立体を把握する能力は、山本が幼い頃から熱中してきた地元滋賀県近江八幡市の伝統的な祭り「左義長(さぎちょう)祭り」が大きく影響しているといいます。毎年、その年の干支となる動物のオブジェを、本物に忠実に今にも動き出しそうなほどに生き生きを作り上げるのが習わしで、山本はそこで培った技術を氷彫刻に活かしています。
もう一つの課題であるアントルメグラッセ(アイスケーキ)は、見た目はもちろん味覚の部分で大きな評価を得る必要があります。山本は今まで磨いてきたケーキ作りの技術に加え、アイスクリームの本場イタリアなどで研究するなどして、一口でさまざまな味が複雑にからみあうアイスケーキを完成させました。
そしてついに、山本は氷彫刻・アントルメグラッセ部門で日本一に登りつめ、もう一度世界へ挑戦する“夢への切符”を手にしたのです。
日本の洋菓子界を背負う3人のシェフたち。企業の枠を超え、ともに目指すのは“世界一”しかありません。フランス本選に向け、日々、懸命に練習を重ねています。