オリジナル和紙の制作現場を訪ねて

偶然が生み出す芸術は「五感を使う」職人の手で

2015年夏、訪れたのは越前和紙の工房としては最大規模の福井県越前市「岩野平三郎製紙所」。
福井県の無形文化財にも指定されています。
和紙の原料は楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)などの木の皮です。
釜で煮込んで繊維をやわらかくし、山から引いた水にひたしながら塵や砂粒を取り除く細かな作業は、全て人の手で行われます。
工房では、和紙デザイナーの堀木エリ子先生と職人が真剣に和紙に向き合います。
店内の柱に設置される和紙を、2.7×2.1mの大きさで「すかし」という伝統的な手法を用いて作り上げます。

「五感を働かせて」 ─── 職人一人ひとりに届くように、堀木先生が言葉をかけます。
4人ずつ漉き桁(けた)の両端に別れ、とろりとした2色の繊維を流し込みます。「せーの」の合図で一斉に流し込まれると、2色の流れはぶつかり合い、混ざり合い、動きが現れます。
二度と同じものは生まれることがない、まさに“偶然が生み出す芸術”。
周りの気配を感じとり、10人全員の息を合わさなければ良いものはできません。
皆で作品を作りあげるという一体感と緊張感のなか、その場で起こる偶然性と受け継がれる職人の技とが一つになった瞬間でした。

白い1枚目の上に2色のマーブル状の和紙を重ね、さらに糸を漉き込みます。
3層漉きの作品は、光を透過すると糸は影となり、奥行きが生まれます。

漉いたばかりの和紙の上に糸を1本ずつ配置するのは、とても綿密な作業。
「見た人におおらかさとダイナミックさを感じて欲しい」
という思いが込められています。

和と洋の融合によって

バームクーヘンの美味しそうな焼き色をイメージした黄土色と、「自然との対話のなかからものを生み出す」和紙にもお菓子にも通じる自然観をあらわす緑。その2色が混ざり合うことで、クラブハリエという、一つの小宇宙を表現しています。
味も、甘みや塩味といったいろんなものが交わって生まれる。人間関係も、ものづくりも同じ。「混ざり合う美しさ」を感じていただけたら。

── 堀木エリ子

堀木先生の京都・太秦の工房では、バームクーヘンをイメージした縦2.4×横1mの和紙が制作されました。

中心の円はバームクーヘン。その周りに虹が広がるイメージで7色のシルクの糸が漉き込まれています。
虹は全世界共通の“希望”の象徴です。
「バームクーヘンという甘いお菓子を中心にして、世界に希望が広がるように、子供たちの笑顔が広がるように」との思いが込められています。

西洋で生まれたお菓子と古くから受け継がれた日本伝統の和紙。
「和と洋の融合」によって生まれた新たな空間へようこそ。